今回紹介するのは特別天然記念物、ニホンカモシカだ。
知ってる!シカさんの仲間なんだよね!
そう思ってしまうのもわかるが……実はシカじゃないんだぜ。
嘘やん。
今回はニホンカモシカの生態やシカとの違い、見られる動物園をお伝えしていくぞ。
ニホンカモシカの生態
1.カモシカはウシの仲間
ニホンカモシカ
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ヤギ亜科
生息地:本州、四国、九州
体長:1.3m
体重:30~45kg
ニホンカモシカは国の特別天然記念物に指定されている日本の固有種です。
主に本州で広く分布しており、標高1500~2000mの山岳地帯で暮らしています。
見た目や名前からしてシカの仲間に思えてしまいますが、ニホンカモシカはウシの仲間にあたります。
シカとの具体的な違いについては次の項目で取り上げているので、ぜひそちらをご覧ください。
草食動物は群れで行動することが多いですが、ニホンカモシカは単独もしくは番で行動し、縄張りを持って行動します。
子どもについては1年間母親と一緒に行動した後、単独で行動するようになります。
2.身体の作りはウシと同じ
外見的には私たちのよく知るウシとは似ても似つきませんが、見えないところではウシとの共通点があります。
具体的には、胃が4つあることと上の前歯がないことです。
これらを具体的に説明していきたいと思います。
胃が4つある
ウシやカモシカは反芻(はんすう)を行う動物です。
反芻とは、一度胃の中に入れた草を再度口の中に戻し、噛みなおす行為のことです。
なぜこのような複雑な構造をしているのでしょうか。
草食動物は自然界では常に肉食獣に狙われている立場なので、まずはご飯を胃に入るだけ貯めようとします。
その後、安全な場所へ移動したときに口の中に戻してゆっくりと食べ始めるのです。
また、1つ目の胃の中ではバクテリアが共生しています。
このバクテリアのおかげでセルロースという人間でも消化できない硬い繊維を分解することができ、様々な植物を食べることが可能となっているのです。
上の前歯がない
ウシやカモシカは上の前歯がない代わりに頑丈な歯茎を持っています。
草を食べる際には下で巻き取り、上あごの歯茎をまな板のように、下あごの前歯を包丁のように使い切り取るように口の中へ運びます。
上前場がない代わりに奥歯がたくさん生えているので、反芻しながら奥歯ですり潰すように咀嚼して胃の中へ運んでいきます。
ちなみにこの2つの特徴はウシ亜目に分類される動物の共通点であり、カモシカの他にもヤギ、ヒツジ、シカ、キリンなどが該当します。
キリンもウシの仲間だったんだ……!
3.シカとカモシカの違い
ニホンジカの亜種であるエゾシカと比べてみましょう。
ウシと聞くとホルスタインなどの家畜や水牛など大柄な動物をイメージしてしまうかもしれません。
しかし、ウシかシカかを見分ける一番の大きなポイントは体格ではなく、角にあります。
シカの仲間の多くは写真のエゾシカのように枝分かれしています。
角は毎年生え変わり、年々大きくなり枝分かれするため、角から年齢を推測することもできます。
一方、ウシの仲間であるニホンカモシカは角が生え変わったり枝分かれすることはなく、一生同じ角を持ち続けます。
これがシカとカモシカの一番の違いになります。
プーズーのオスはシカの仲間だが、生え変わっても枝分かれすることはないぞ。写真メスだけど。
例外もいるってことだね。
また、シカの仲間はメスに角が生えません。
オスに角が生える理由はメスの気を引くためです。
より大きくて立派な角ほど健康である証であり、メスへのアピールに繋がるのです。
それだけでなく、お互いの角を突き合わせて力比べをする際にも利用されます。
ちなみに、サンタの相棒としてもお馴染みのトナカイは唯一メスにも角が生えるシカの仲間だ。
れ、例外だらけ……!
トナカイは雪の中に埋まった食べ物を探す際にスコップのように利用するためにメスにも生えていると考えられています。
一方、ニホンカモシカにはオスにもメスにも角が生えています。
ただし、ウシの仲間みんながメスにも角が生えるわけではなく、種によって様々です。
4.ニホンカモシカに近い仲間たち
ニホンカモシカはウシ科ヤギ亜科に分類されるヤギに近い存在です。
以下がニホンカモシカと同じヤギ亜科の動物たちです。
バーバリーシープ
バーバリーシープはヒツジに近い仲間の一方で、ヤギとの間で子どもができる変わった種です。
アフリカ北部に生息し、岩から岩へジャンプして移動します。
ゴールデンターキン
ターキンは中国などのアジア中部で暮らす大型のヤギの仲間です。
夏は山の高いところに集まり、冬になると低地まで降りてきます。
オオツノヒツジ
オオツノヒツジはロッキー山脈に生息しているヒツジの仲間です。
その名の通り大きな角が特徴的で、メスを巡ってオス同士で角を衝突させて力比べをします。
シャモア
写りが悪くて伝わりづらいかもしれませんが、シャモアはヨーロッパに暮らすヤギの仲間です。
今回紹介した中では最もニホンカモシカと近縁で、別名スイスカモシカやアルプスカモシカとも呼ばれています。
ちなみに現在、日本で見られるシャモアはこの多摩動物公園で暮らすオスの個体1頭のみです。
ヒツジもヤギの仲間だったことに驚きだよ~。
このあたりについてはシカとの違いも含め下記の記事で取り上げているので、良かったら併せてご覧ください。
5.カモシカには目が4つある?
ニホンカモシカには目の下に黒い模様があります。
これは眼下腺と呼ばれるもので、ここから匂いのついた粘液を出して木や岩にこすりつけることで縄張りを主張します。
これだけだと遠目から見ても第3第4の目と見間違えることはなさそうですが、2021年6月に1枚の写真がネットニュースになりました。
4つ目に見えるニホンカモシカが寺院の境内で目撃されたことから「神の使いではないか?」と話題になったのです。
専門家によると「大きく発達した眼下腺が光の反射具合で目に見えたのだろう」とのことでしたが、何とも不思議な1枚です。
拡大されても4つ目に見えるのが凄いな。
野暮なことは言わない、これはもう神の使いだよ。
ちなみに、蹄の間にも腺があり、そこからも同じように粘液を出してマーキングをします。
人間とニホンカモシカの関係
1.なぜニホンカモシカは特別天然記念物なのか
特別天然記念物とは、文化財保護法により定められた学術上の価値が高く特に重要とされる動物のことを指します。
ニホンカモシカ以外の有名な動物としてはトキやタンチョウ、オオサンショウオなどが特別天然記念物に指定されています。
カモシカは元々の希少度に加え狩猟などが原因で数を減らしたことで「幻の動物」と呼ばれるほどほど目撃数が少なくなったことで、昭和9年に天然記念物に指定されました。
しかし、戦後の密猟が大きな原因となりその後も数が減少したことで、昭和30年により重要度の高い特別天然記念物に指定されました。
2.害獣となったニホンカモシカ
現在は個体数は回復傾向にあるものの、今度は別の問題が現れました。
それは害獣として扱われるようになったことです。
人目のつかない山の奥で暮らしていたカモシカですが、現在は人里まで降りて農作物を荒らす被害が日本各地で発生しています。
これには様々な原因が考えられますが、「ニホンジカが増加したことにより生活圏を拡大せざるを得なかった」ことや「天敵であるニホンオオカミが絶滅したことでシカを捕食する者がいなくなった」ことなどが挙げられています。
つまり、生態系のバランスの崩壊が大きく関係しているのです。
ニホンジカもカモシカと同じように狩猟や駆除などが原因で個体数を大きく減らしましたが、保護されるや否や高い繁殖力によりあっという間に激増しました。
ニホンジカは群れで行動し、森林の消滅が心配されるほどの食欲を持っているため、シカよりも身体が小さく単独行動をするニホンカモシカは山から追い出されてしまいます。
また、生態系の頂点であったニホンオオカミは1905年を最後に目撃例が途絶え、絶滅してしまいました。
ニホンオオカミが絶滅した原因の一つとして人間が乱獲、駆除をした他に「シカやイノシシが人間に乱獲されたことで獲物が減ってしまった」ことが考えられています。
ニホンカオオカミが絶滅した現在、シカやイノシシが増加を食い止める者が人間しかいなくなってしまいましたが、当然そんな都合が良いように個体調整をできるはずがありません。
あまつさえ今は森林の管理者や狩猟者が減っていることも問題視されています。
ニホンカモシカがシカやイノシシと違う点は、特別天然記念物であることです。
特別天然記念物は守るべき存在であるため、特別な許可がない限り被害に遭っても駆除することができません。
生態系のバランスが崩れた結果、特別天然記念物に指定されているニホンカモシカまでも害獣と呼ばれるようになってしまったのです。
なんという地獄絵図……。
人間は神にはなれないんだ。
3.ニホンカモシカを見かけたら
カモシカを見つけたら、その場からそっと離れましょう。
カモシカは比較的大人しいため、人間を見ても基本的に危害を加えることはありません。
だからといって、むやみに近づいたり驚かせて刺激してしないようにしましょう。
カモシカなら大丈夫でしょ?って思ってしまうかもしれませんが、カモシカは強いです!
大人しくてつぶらな瞳の可愛い草食動物ではありますが、野生動物の力を侮ってはいけません。
過去に罠にかかったカモシカを救出しようとした人が角に刺されて亡くなった事故もありました。
弱っている場合や死んでいる場合も近づくことはせず、自治体の環境課などに連絡するようにしましょう。
また、子どもが一匹でいる姿を目撃した人が「迷子になって可哀想」という理由で保護する事例が少なくないそうです。
一見一人ぼっちに見えても近くに親がいる場合がほとんどなので、決して保護していけません。
親を刺激してしまう原因になりますし、一度保護した子どもカモシカを自然へ復帰させることは難しいのです。
カモシカに限らず、野生動物を見つけた場合はむやみに近づいたり、自分の判断で保護しないようにしましょう。
餌付けなんてもってのほかだぞ。
ニホンカモシカを見られる動物園
2021年7月現在、日本でニホンカモシカを見られる動物園は以下の通りです。
盛岡市動物公園 ZOOMO(岩手県)
埼玉県こども動物自然公園(埼玉県)
上野動物園(東京都)
多摩動物公園(東京都)
井の頭自然文化園(東京都)
東京都立大島公園(東京都)
金沢動物園(神奈川県)
富山市ファミリーパーク(富山県)
茶臼山動物園(長野県)
飯田市立動物園(長野県)
大町山岳博物館(長野県)
のんほいパーク(豊橋総合動植物公園)(愛知県)
東山動植物園(愛知県)
神戸市立王子動物園(兵庫県)
とくしま動物園(徳島県)
わんぱーくこうちアニマルランド(高知県)
安佐動物公園 asazoo(広島県)
17園で見ることができますが、地域に偏りがあるので誰でも見られるような動物ではありません。
一方、東京都の動物園の多くで展示されているので首都圏在住の方は比較的気軽に見ることができます。
まとめ
以上、ニホンカモシカについてお伝えいたしました。
日本の固有種であり特別天然記念物であるニホンカモシカについて、少しでも興味を持っていただけたら幸いです。
近年では市街地に出没するようになりより身近な存在となったニホンカモシカについて、ぜひこれからも注目してみてください。
では、最後まで読んでくださりありがとうございました!
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参考
特別天然記念物「ニホンカモシカ」が農地や住宅地に… 触れることもできない農家の苦悩 愛知・豊田市 : 中京テレビNEWS
「神のお使いでは…」“四つ目のカモシカ”あらわる|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト
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